肥料だけじゃない。アンモニアを発電に利用する
農作物を育てるのに重要な役割を果たすのが肥料です。
中でも窒素肥料は農業で広く使われています。
窒素というと空気中に多く含まれていることが知られています。
大気中の80%を窒素が占めています。
ただ、農作物の植物は大気中に気体として存在する窒素を吸収することができないのです。
そのため、植物が吸収できる固体の肥料の形で与えることが必要になるわけです。
窒素が不足すると植物の葉や茎の成長が鈍くなります。
農作物を育てる土壌に適度な窒素が含まれているかは収穫の質と量を左右します。
とくに農作物の生育の初期に窒素肥料を与えることで健全な成長を促進させる効果が期待されてきました。
窒素肥料の多くはアンモニアが使われています。
硫安と呼ばれる窒素肥料は、硫酸アンモニウムの略です。
効果が1か月程度続き、水に溶けやすく土壌に良くなじむことが特徴で、ビギナーにも重宝されている肥料です。
塩安は塩化アンモニウムのことで、硫安は窒素のみの単肥ですが塩安はアンモニア態窒素を25%含む肥料です。
硝安は硝酸アンモニウムで、アンモニア態窒素と硝酸態窒素を含む複合肥料です。
農業で使う肥料においてアンモニアは欠かせない役割を果たしています。
実際、生産されたアンモニアの大半が肥料として使われています。
そんなアンモニアですが、将来的な新たなエネルギーとしても期待されています。
次世代エネルギーとして注目されている水素を輸送する手段としての利用やエネルギーを産み出す燃料としての利用です。
水素の弱点をカバーするアンモニア
地球温暖化をストップさせるために温室効果ガスである二酸化炭素を排出しない次世代エネルギーが望まれています。
その有力な一つとして水素が挙げられます。
水素は酸素と反応することで電気と水を作り出すことが可能です。
水素は二酸化炭素を排出しませんから、石油や石炭と言った化石燃料を燃やして二酸化炭素を出しながらエネルギーを作り出す火力発電に代替するものとして期待できます。
水素は地球上に多く存在します。
水からも取り出すことができます。
さらに、エネルギーを水素の形に変換して保存することも可能です。
太陽光発電や風力発電で作り出した余った電力は保存することができませんが、水素に変換することで、水素という形で将来に残すことができるのです。
そんな代替エネルギーの有力候補である水素ですが、弱点があります。
水素は輸送コストが高くなることです。
そのままの形で水素を運んだとしても一度に運べる量には限りがあります。
高い圧力をかけて圧縮して運ぶという形や、低温で液体にして運ぶという輸送手段が取られています。
水素を運ぶには手間が多くかかるのです。
そこで脚光を浴びているのがアンモニアです。
アンモニアはもともと水素分子を含む物質です。
大量輸送が難しい水素をアンモニアの形で輸送して、使用する場所で水素に戻すことも可能です。
運びやすいアンモニアは農業用の肥料だけでなく、水素の輸送媒体としても期待されているのです。
アンモニアを燃料として発電に利用する
農業用の肥料や次世代エネルギーの水素を運ぶ媒体など、アンモニアは様々な用途で注目されています。
発電の分野では、火力発電所にて排出される煤に含まれる窒素酸化物を化学反応により窒素と水に還元させる働きを担っています。
有害物質の排出の削減にも一役買っているわけです。
アンモニアは燃焼しても二酸化炭素を排出しません。
そのため、地球温暖化を進めないためのクリーンエネルギーとして使うための研究開発が始まっています。
アンモニアを燃焼させたエネルギーを源に発電しようというものです。
同様に新たなエネルギーとして期待されている水素と比較すると、アンモニアのほうが発電コストは大きく下回ります。
とくに輸送コストは圧倒的に水素よりもアンモニアのほうが効率的です。
加えて、現実的に即効性が期待されるのが、混燃と言われるものです。
混燃とは既存の石炭火力発電所にてアンモニアを混ぜて使用するというものです。
実証実験として燃料の20%をアンモニアに置き換えるという取り組みが始まっています。
20%を置き換えるだけでも4,000万トンのCO2削減につながります。
将来的にアンモニアだけでの発電が可能になれば20%の5倍の温室効果ガスの削減できることになります。
これだけさまざまな有用性があるアンモニアですが、問題となるのは供給不足です。
需要が大幅に増える事でアンモニアの生産が足りなくなれば、当然価格も高騰していきますので現在よりもコストは高くなる可能性があります。
とはいえ、地球環境を考慮するとアンモニアは欠かせない物質です。
いかに、その実力を引き出し利用していくかに知恵を結集して取り組んでいく必要があります。