光で魚を育てる光養殖
光で育てる野菜が一般的になってきています。
光で育てる野菜は、屋内でLEDライトなどの人工光源を利用して栽培されます。
この方法は一般的に「屋内栽培」や「室内園芸」と呼ばれます。
野菜の成長には適切な光のスペクトルが重要であり、一般的に青色と赤色の光が使用されます。
屋内での野菜栽培は季節や気候に左右されず、都市部や屋内空間でも可能な持続可能な栽培方法として注目されています。
最近では、野菜だけでなく、魚も光で育てる試みが行われています。
光で育てるといっても、野菜のように光だけで育てるのではなく、魚の養殖の際にある条件の光を当てることで、魚が大きく育つというものです。
光養殖とも呼ばれるこの手法は、ヒラメやカレイの場合は緑色の光を用います。
カレイが養殖されている水槽を緑色の発光ダイオード(LED)で昼の時間帯に照らします。
カレイは、本来、海底などに生息する底生魚ですが、緑色の光を浴びると回遊魚のように水槽内を泳ぎ回ります。
養殖のカレイは水槽の底にへばりつくようにじっとしていることが多いのですが、緑の光によって活発に動き、餌をまくと勢いよく餌に食らいつきます。
よく動き、よく食べることで、通常の養殖のカレイと比較して、1.6倍にも大きく育ちます。
大きく育つため、養殖開始から出荷までの期間も短縮できるといいます。
緑の光でカレイがよく育つということを発見したのは、北里大学海洋生命科学部の高橋明義教授です。
きっかけは、養殖でカレイなどの底生魚を育てると底側の白い体の部分が黒ずんでしまうという問題を解決しようという研究でした。
黒ずんでしまうと見栄えが良くないということで、試行錯誤を重ねていると白い水槽では黒ずみが解消されるケースが多いという事実にたどり着きます。
色の影響を調べるために、様々な色の光を当てて育てていくと、緑色の光を当てると成長が良いことがわかりました。
海中では深さによって、届く太陽光は変わります。
光の波長によって、届く色は深さで変わってくるのです。
天然のカレイが暮らす海の深さでは緑色の光がよく届くので、天然の環境に近い水槽で、元気に育つのではないかと考えられています。
さらに研究すると、緑の光を当てて養殖した魚は、メラニン凝集ホルモンが多く分泌されていることがわかりました。
メラニン凝集ホルモンは、食欲を増進させるホルモンとして知られています。
何色の光を当てるとよく育つかは魚の種類によっても異なります。
たとえば、水揚げが少なく「幻の魚」ともいわれるクエは青色の光をあてて養殖すると大きく育ちます。
日本の漁業全体の生産量に占める養殖の割合は2割で、沿岸漁業とほぼ同じです。
伝統的な漁業では漁獲量の減少や資源の枯渇が懸念されています。
養殖技術の発展によって安定した魚介類の供給が可能になり、過剰な漁獲や環境破壊を引き起こすリスクを低減します。
海洋生態系の保護にもつながり、自然の資源を保護しつつ需要に応えることも期待されます。