カカオ農家のフェアトレードと児童強制労働
世界の中でも豊かな国の一つである日本は食べ物が手に入りやすい国と言えます。
街には食料品を売る商店さらにスーパーやコンビニが立ち並び、低価格のモノから高額なモノまで経済状況によって選べます。
また、食堂やレストランも豊かなバリエーションでおいしい食事を提供しています。
消費者からすると少しでも安い金額でモノを手に入れたいというのが当然の心理です。
同じモノであれば、ほとんどの方が安い方を購入します。
提供する側もそのことはわかっていて、1円でも安く市場に出せるように努力します。
そのためには、仕入れの金額を低く抑える必要があり、周り回ってその1円のしわ寄せは生産者に降りかかります。
自給率が40%を切る日本では、半分以上の食品は輸入に頼っています。
そして、その食品の生産国が食糧不足に陥っているというケースも少なくありません。
とくに加工品であるカカオ豆やコーヒー豆、アブラヤシなど、現地の方たちは自分たちが作ったものがどんな風に売られているのかさえわからないケースも多いです。
もしかしたら、おしゃれなカフェで人気シェフが手を加えて人気のスイーツになっているかもしれません。
想像してみると恐ろしい図式です。
敢えて極端に表現すると、貧困に苦しむ人々が汗水たらして育てた作物を低価格で買い叩いて、食べきれないものは廃棄する。
日本で年間廃棄される食べ物は600万トンです。
個人としては、せめて、食卓には自分の食べられる量だけを考えてのせるようにするしかないと思います。
現在のゆがみを根本的に修正していくためには、生産者に労働に見合うだけの金額を支払うことが大切です。
その結果、食べ物の値段が高くなったとしたら、今より少しは食べ残しも減るのかもしれません。
カカオ農家をフェアトレードはどこまで救えるか
チョコレートを食べると何とも言えない幸せな気持ちになります。
様々なストレスを抱えてしまう方が多い中、カカオがストレスを軽減するという研究結果も発表されて、カカオの割合が高めのチョコレートが開発されて人気にもなっています。
益々ニーズの高まるチョコレートの原料はカカオです。
世界のカカオの約60%がアフリカのコートジボワールとガーナで生産されていて、他のアフリカ諸国や南米の国などが生産国の中心です。
単純に考えれば、カカオの需要が高まれば生産者も豊かになりそうですが、現実にはそのような状況にはなっていません。
多くのカカオ生産者が貧困に苦しんでいます。
カカオ農家の多くが1日2ドル以下で生活しています。世界銀行によって定められた国際貧困ラインを下回るレベルです。
また、児童労働についても問題になっています。
カカオの主要な生産国のコートジボワールとガーナだけで212万人の子供がカカオの生産に関わっていて、その数は増加しています。
フェアトレードという言葉を耳にする機会も増えてきましたが、まだまだ社会に浸透しているとは言えません。
必ずしもうまくいっていません。
一つの製品が出来上がるまでには様々な工程があり、想像以上に多くの人が関わってモノというものは作られていきます。モノを販売するには安く作って高く売ることで、その差額が利益となって報酬として関わった人たちに支払われます。ただ、その配分は必ずしも平等とは言えないのが現状です。
先進国で販売される商品は価格競争にさらされるため、企業は一円でも安くモノを作ろうとします。そのために原料を安く仕入れることに注力すするようになり、そのしわ寄せは原料を生産する発展途上国の労働者に課せられます。
たとえば、チョコレートの原料であるカカオ豆はコートジボワール、ガーナ、ナイジェリアなどの西アフリカの国が占めていますが、人々に支払われる賃金は低く、児童労働などの別の問題も引き起こしています。
カカオ豆はアジアのベトナムでも生産されていて、生産量としてはまだまだ少ないのですが、生産工程を厳しく管理した品質の良いカカオになっているということで、大手チョコレート会社を中心に現地での買い付けや栽培地が拡大されています。ただ、高級チョコレートの原料になっているとはいえ、対価としての賃金は決して高い物ではありません。高品質のカカオを生産しているにもかかわらず、十分な対価を得られていないというのが実際の所になります。
チュコレート市場は世界シェア上位6社のマース、モンデリーズ、ネスレ、フェレロ、ハーシー、リンツ&シュプルングリーで市場の60%を占めています。
こうした企業が本格的に格差是正を「語る」だけでなく「実践する」ことが必要です。
チョコレートの小売価格の配分も、小売店が約40%、製造・加工工程で30%、販売・広告で10%、中間業者でさえ5%なのに対して、生産者には3%しか渡りません。
また、将来的に温暖化の影響で気温が上がり、水分の蒸発の増加に比して降雨が見込めないため、カカオの生産が厳しくなるとのデータもあります。
これまでは欧米中心だったチョコレート消費も、中国やインドなどの人口の多い地域での需要が高まり、慢性的なカカオ不足になるとも言われています。
カカオの栽培手法は古くからあまり進歩していないと指摘するレポートもあります。
フェアトレードの推進がなかなか進まない中、栽培技術の支援など別の角度からの取り組みも必要なのかもしれません。
児童強制労働のない世の中へ
2015年9月の国連サミットで採択され、国連加盟193ヵ国が2030年までに達成する目標と掲げられたのがSDGsです。
その中で「2025年までにあらゆる児童労働を終わらせる」という目標があります。
学校に行かずに労働している子ども達をゼロにしようという目標です。
発達段階の子供であるにも関わらず、家計を支えるために働かせられたり、人身売買により労働を強いられれるなどの児童労働に従事している子どもの数は少なくありません。
国際労働機関(ILO)の調査によると5歳から17歳の子供のうち児童労働をしている子供の数は1億6,800万人に上ります。
ユニセフの発表によると開発途上国では5歳から14歳の子供の13%が児童労働に従事していて、後発開発途上国では25%にまで膨れ上がります。
児童労働の主な原因は貧困です。
とくに児童労働の9割近くを占めているサハラ以南のアフリカ地域とアジア・太平洋地域では、困窮した家族の生活を成り立たせるために学校に行かずに稼ぎ頭として子供が働いているケースが多いです。
学校に行く機会を失うという事は、教育を受ける機会を失うという事です。
基本的な教育を受けていないことは成人してからの職業の選択の幅を狭めることになり、困窮した状況から抜け出せないというスパイラルになっていきます。
大人と同様の仕事を強いられる環境ではケガをする機会も多くなります。
また、工場や採掘現場では有毒物質に触れることも多くなり、病気を患い、幼くして将来を奪われてしまう子ども達も少なくありません。
なかには、人身売買の対象となったり、兵士として扱われる子どもいます。
児童労働の約7割が農林水産業に従事しています。
カカオ農家やコットン農家、レアメタルを採掘する鉱山労働などが例として挙げられます。
実は、児童労働の多いこれらの分野で扱われる原料は、日本でも日常的に消費されている商品に大きく関わっています。
紅茶やタバコの農場でも児童労働は行われています。
サッカーボールを縫わされている子ども達もいます。
カカオはチョコレートの原料となりますし、コットンは衣服に使われます。レアメタルは今や携帯電話をはじめ多くの電化製品に欠かせないものとなっています。
日本で食べられているチョコレートに使われるカカオのうち80%はガーナ産なのですが、そのガーナのカカオを生産する小規模農家も子供たちの児童労働によって支えられています。
家族の生活を維持するために学校で学ぶことをあきらめて労働する子供たちによってガーナのカカオは生産され、そのカカオを使用したチョコレートを私たちは食べています。
児童労働がなくならない要因の一つは貧困ではありますが、こうした製品の日常的な消費活動が児童労働の一翼を担っていることになってしまっていることも忘れてはいけません。
イギリス、フランスなどのヨーロッパ諸国では、企業が児童労働に間接的にでも加担していないかの調査が法律で義務づけられるようにもなってきました。
自分が使っている製品がどのように作られているかに思いを巡らせることで、児童労働が他人ごとではないということがわかってきます。