CO2を吸収するはずの森林がCO2の発生源になる
森林は、地球温暖化の抑制において重要な役割を果たしています。
その中でも、CO2(二酸化炭素)の吸収は特に注目されています。
樹木は光合成によって太陽エネルギーを取り込み、これを利用して二酸化炭素を吸収し、酸素を放出します。
このプロセスによって、大気中のCO2濃度が減少し、温室効果ガスの量が抑制されるため、気候変動の緩和に寄与します。
ただ、植物のCO2吸収能力には限界があり、気温の上昇が進むと、それが低下するという課題もあります。
光合成と呼吸との関係
樹木や植物が行う光合成は、地球上の生態系において重要な役割を果たし、大気中の二酸化炭素を吸収して酸素を供給することで、地球の生態系のバランスを維持しています。
光合成の過程で生成された糖は、植物が成長やエネルギーを得るために使用されます。同時に、大気中に酸素が放出されます。
その一方で、樹木や植物は呼吸もしています。
人間と同じように、呼吸によって酸素を吸収し二酸化炭素を放出しています。
通常は、光合成によって吸収した二酸化炭素の量が、同時に行われる呼吸によって排出される二酸化炭素の量を上回ります。
この差によって、樹木は大気中の二酸化炭素を吸収し、それを有機物として取り込み、栄養にします。
しかしながら、植物は光合成において最適な温度範囲があり、これを超えると光合成が効率的に行われなくなります。
このため、気温が一定以上に上昇すると、植物の生理的な制約からCO2吸収能力が低下すると考えられています。
地域や植物の種類によって限界温度は異なりますが、これが続くと、植物が逆にCO2を排出する可能性があることが懸念されています。
現在の予測によれば、21世紀末までに地球上の気温が上昇し続ける場合、多くの地域や植物が影響を受け、約半分の植物がCO2を吸収するどころか、逆に大気中にCO2を放出するようになる可能性があるとされています。
この現象が進行すれば、地球温暖化の進行を加速させ、気候変動への対処が一層困難になる可能性があります。
とくに近年、日本でも夏や秋の気温が特に高くなっています。
気温が高くなると、植物の代謝が上がって呼吸量も増加します。
光合成は昼間にのみ行われますが、呼吸は夜間も通して一日中行われます。
呼吸が増えると排出する二酸化炭素の量も多くなり、光合成により吸収した二酸化炭素の量を上回り、トータルでは二酸化炭素排出量の方が多くなることがあります。
そうなると、樹木や植物であっても二酸化炭素を排出する側になってしまうことになります。
光合成の能力は、気温がある程度高い方が高まりますが、平均気温が25℃以上になると低下するといわれています。
高温が続くと、植物の葉緑体内の酵素が不安定になり、光合成の主要な酵素であるルビスコの効率が低下します。
また、蒸散が増加して水分ストレスが起きやすくなるため、これも光合成を阻害します。
一方で、呼吸は温度が上昇すると増加する傾向があります。
呼吸は生物のエネルギー生産の必須プロセスで、高温では代謝が活発化し、その結果として呼吸も増加します。
光合成が十分に行われず、呼吸が増加すると、植物は二酸化炭素を吸収する能力を低下させ、同時に二酸化炭素を排出する傾向が強まります。
つまりは、「CO2を吸収する植物」から「CO2を放出する植物」になるというわけです。
森林破壊も原因の一つ
樹木は生きている間は光合成によって大気中のCO2を吸収し、同時に酸素を放出します。
光合成によって生成された有機物は、樹木が成長し、木材や他の有機物の形で蓄積されます。
このプロセスにより、樹木は一時的に大気中のCO2を吸収し、それを固定化します。
しかし、樹木が死んで分解されると、これらの有機物が酸素を消費し、同時に二酸化炭素を放出します。
死んだ樹木や植物は、生前に吸収したCO2を放出することになります。
一例として、アマゾン熱帯雨林の最大5分の1で二酸化炭素(CO2)排出量が吸収量を上回っていることが、最新の研究で明らかになっています。
アマゾンの森林破壊が一因とされています。
また、二酸化炭素(CO2)排出量が吸収量を上回っている地域は、アマゾンだけでなく世界各地に点在しています。
森林破壊や前述の地球温暖化による高温化の影響によって、植物たちが悲鳴をあげています。
その悲鳴に耳を傾けなければならない限界の時期にきています。